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チョ・インソン~ジェミンに恋して

チョ・インソン~ジェミンに恋して

葛藤9

スジョンはここ数日間の出来事を、ジェミンの胸で癒されていくように、

安堵の中で深い眠りにおちていた。

ジェミンはスジョンを起こさぬように、そっとベッドから抜け出しリビ

ングに行き酒を出し一人飲み始めた。

もう陽が暮れかけている。

長く苦しい時間だった。

やっと安心して眠りについたスジョンをみて、全身の緊張感が抜けてい

くようだった。

痛々しいスジョンを思うと、イヌクに対して沸々と怒りと憎しみがこみ

上げてくるのを押さえきれずにいた。

命を懸けて手に入れた幸せが、儚く消え失せてしまいそうな不安に襲わ

れたジェミンは、何度でも命を懸けて守ってみせる・・・と、心の中で

つぶやいた。

グラスを一気に飲み干して深くため息をついた。

そして一日も早く、スジョンの心の傷を癒してあげたいと願った。

寝室に戻ると、スジョンは疲れ切って深い眠りについているようだった

が、引き裂かれたブラウスがあまりにも痛々しく、ジェミンは思わず目

を背けた。

明日目覚めたら、せめて夢だったと思わせたい・・ジェミンは静かにス

ジョンを着替えさせ始めるのだった。

そっとブラウスを脱がすと、隠れていた傷やあざが目に入り、ジェミン

は自分の傷以上に傷みを覚えていた。

肩に残った大きなあざにそっとキスをして、静かに泣いた。



イヌクはホテルのプールサイドに一人いた。

泣き叫ぶスジョンの痛々しい姿を思い出すたびに、自分を責めていた。

愛されないとわかっていて、それでもなおスジョンを求める自分の心が、

おぞましくもまた意地らしく、切なさに身を焦がすようだった。

スジョンとの思い出が浮かんでは消えてゆく・・。

バリでともに過ごしたわずかな時間が懐かしく、愛おしかった。

プールサイドで日がな一日、スジョンと過ごした日々も思い出された。

ホテルの室内プールと違い、まぶしい太陽が燦々と降り注ぐ中で愛した

スジョンは、すでに遠い・・遠い存在になってしまったと感じていたが、

それでもなお、スジョンを愛する心がイヌクの中で生きたいともがいて

いるのだった。

スジョンを忘れるには、イヌク自身もこの3年間であまりにも深く傷つ

き過ぎていた。

愛は罪か・・・愛されない愛は罪なのだろうか・・。

イヌクの頬につっと涙が流れると、イヌクは急いで立ち上がりプールに

飛び込んだ。

涙がプールの水に溶け込んでゆく・・・部屋で一人泣くには、あまりに

も辛い涙であった。

誰にも気付かれず・・願わくは自分自身でさえも気付かぬように、溢れ

る涙を涸れるまで捨ててしまいたいと、いつまでもイヌクは泳ぎ続けて

いた。



翌朝、スジョンが目覚めるとすでにジェミンが起きていた。

一瞬、何が夢で何が現実なのかスジョンは混乱し、そしてすべてが現実

であったことを思い出していた。

少し痛む腕を見ると、いつの間にか着替えていることに気付いた。

「あなた」

スジョンがジェミンを呼ぶとジェミンが答えた。

「起きたか?今行く・・」

すると、ジェミンがなんとエプロンをつけて現れたので、思わずスジョ

ンは吹き出した。

「どうしたの?」

「どうだ、似合うだろ・・」

ジェミンはスジョンの前で一周回って見せた。

そしてベッドに腰掛けスジョンにキスをし

「おはよう・・良い朝だ」

と明るく言った。

「いったい何事?」

スジョンが聞くとジェミンは笑って答えた。

「飯にしよう・・・ここで待っていろ」

そう言って、ジェミンは寝室を出ていくと、両手でトレーを抱えて戻っ

てきた。

ベッドの中でスジョンに朝食を食べさせようと、朝早くから準備をして

いたのだった。

「さっ、起きあがって食べろ。うまいぞ・・」

スジョンはジェミンにされるまま起きあがり、トレーに並んだ料理を見た。

オムレツとパンとミルクとフルーツが並び、小さな一輪の赤い花が添え

られていた。

「これをあなたが・・?」

「あぁ・・朝からショーンに電話をして教えてもらったから、味は保証付

だ。心配しないで食べろ」

スジョンは可笑しくて笑った。

「心配したわ・・グラーシュだったらどうしようかと思って」

「おまえ・・それは昔の話だ」

とジェミンはわざとすねたように言うと、その様子が可笑しくてスジョン

が笑った。

スジョンの笑顔を見て、不安で乾ききったジェミンの心が潤ってくるのを

感じていた。

「あなた・・ありがとう」

スジョンの笑顔に一筋の涙が伝っていった。


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